牛は家畜として育てられ、その肉(牛肉)は世界中で消費されます。
ここでは、肉を得るために飼育される牛(肉牛)についてまとめます。
肉牛に限らない家畜としての牛(ウシ)全体については、こちらのページでまとめています。
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肉牛とは
肉牛とは、牛肉を生産するために飼育されているウシ(牛)のことです。
牛の品種に関わらず牛肉を生産する目的で飼われている牛は肉牛です。
肉牛用に品種改良された品種を子牛の頃から肉牛として飼育します。
ホルスタインなどの乳牛用の品種のオス牛や乳が出なくなったメス牛を肉牛用に飼育することもあります。
農業の形態(混合農業と企業的牧畜)
肉牛を育てる農業形態としては、混合農業と企業的牧畜があります。
混合農業では、トウモロコシや大豆などの飼料作物が栽培できる温暖な地域で肉牛を飼育します。
肉牛は太らせるために乳牛よりもカロリーの高いエサがたくさん必要です。
そのため、カロリーが高いトウモロコシや大豆の栽培に適した地域で肉牛を飼育するのが効率的です。
アメリカでは中西部のコーンベルト(とうもろこし地帯)とよばれるトウモロコシの栽培に適した地域で混合農業による肉牛の飼育が盛んでした。
近年では、アメリカ国内で飼料作物の栽培場所と肉牛の飼育場所の分業が進んでおり、肉牛の飼育場所は中西部のコーンベルトから南部のグレートプレーンズ(次の段落参照)へ移っています。
新大陸の乾燥した地域では、広大な土地があるにも関わらず作物栽培には乾燥しすぎているため、代わりに企業的牧畜とよばれる大規模な牧畜形態が見られます。
米国中央部のグレートプレーンズが代表的です。
企業的牧畜では、フィードロットとよばれる柵で囲われている狭い放牧場に家畜を放牧し、カロリーの高いエサをたくさん与えて太らせます。
他の牧畜形態と比べて大規模な牧畜形態であるため、肉牛の生産量上位の国は企業的牧畜が盛んな国に集中しています。
肉牛の飼育
肉牛として育てられる牛には、子牛の頃から肉牛として育てられる牛と、元々乳牛だったメス牛を肉牛として育て直す場合の2種類があります。
いずれの場合も、肉牛は人間が食べるために太らせる必要があります。
そのため、カロリーが低い牧草よりもカロリーが高いトウモロコシや大豆粕などの濃厚飼料をたくさん与えます。
企業的牧畜では効率的に太らせるために牛をフィードロットとよばれる狭い柵の中のスペースに入れて運動を制限してやせないようにします。
十分に太らせた牛はストレスを与えないためにあらかじめ気絶させた上で屠殺(とさつ)します(生後2.5-3年程度)。
屠殺した牛は解体されて、部位ごとに食肉として切り出されます。
食肉は冷凍されて新鮮な状態を保ったまま消費地に運ばれます。
肉牛の品種
肉牛も品種改良を繰り返して生まれた家畜なので、様々な品種が存在します。
たとえば、スコットランド原産のアバディーン・アンガス種(アンガス牛)は、やわらかい肉質が特徴の品種であり、ステーキ用によく使われています。
イングランド北東部原産のショートホーン種は、元々乳牛用と肉牛用の両方の用途で使えるように品種改良されてきた品種ですが、肉づきの良さから広く肉牛用として飼育されています。
これらの品種は、新大陸の企業的牧畜による大規模な飼育が行われ、牛肉は冷凍されて冷凍船で世界中に輸出されています。
一方、日本は山がちな地形で人口密度も高く、牧畜用に広大な土地を確保できないため小規模になりがちで、新大陸の企業的牧畜と比べてコスト的に不利です。
そのため、品種や飼育方法・地域に厳しい制限を設けたブランド牛(神戸牛など)を育てることで、高値でも売れる牛肉を生産しています。
和牛
和牛は日本在来種の牛をベースに品種改良した品種で、日本で肉牛として広く飼育されています。
日本在来種をベースにしていますが、明治時代に肉質の向上のためにヨーロッパの品種と交配が繰り返されました。
和牛は日本独自のブランド牛としての側面があるため、和牛として認定されるためには品種だけではなく日本国内での飼育が必要です。
和牛を海外へ連れて行って飼育しても、それは和牛とは認められません。
企業的牧畜により生産される安価な海外産の牛肉と比べると、山がちで国土が狭い日本国内で飼育するとどうしてもコスト的に割高になります。
そのため、品種や地域、育て方などに厳しい条件を設けたブランド牛を作り出すことで、高品質・高価格な牛肉として売り出しています。
代表的なブランド牛として、三重県中部(松阪市周辺)で飼育される松阪牛(まつさかうし)や山形県南部(米沢市周辺)で飼育される米沢牛(よねざわぎゅう)があります。
これらのブランドを名乗るためには厳しい条件を満たす必要があり、たとえば同じ品種であっても地域外で育てた場合にはブランド牛の名前を名乗ることができません。
牛肉の生産と貿易
肉牛の生産が盛んな地域は、輸出目的の企業的牧畜が盛んな新大陸の国々(アメリカ、オーストラリア、ブラジル、アルゼンチン)です。
新大陸の乾燥した地域では、広大な土地があるにも関わらず作物栽培には乾燥しすぎているため、代わりに牧畜が行われています。
アメリカでは、肉牛の飼育が盛んな地域が2箇所あります。
1つは企業的牧畜による大規模飼育が盛んな地域で、ロッキー山脈の東側の乾燥したグレートプレーンズ南部(テキサス州など)が該当します。
もう1つは、エサとなるトウモロコシの栽培が盛んなコーンベルト(とうもろこし地帯)に位置する中西部(ネブラスカ州やアイオワ州)です。
オーストラリアでは、北東部のクイーンズランド州や東部のニューサウスウェールズ州の内陸部の乾燥した地域で肉牛の飼育が盛んです。
北部では暑すぎて羊が飼育できないため肉牛単独で飼育していますが、涼しい南部では肉牛と羊を合わせて飼育しています。
ブラジルでは、中西部のセラードとよばれる草原地帯で肉牛の飼育が盛んです。
セラードでは、飼料作物となる牧草やトウモロコシ、大豆などの栽培も盛んに行われています。
アルゼンチンでは、中部に位置するパンパと呼ばれる低地で肉牛の飼育が盛んです。
パンパの中でも海に近いため降水量が多い東部のブエノスアイレス州周辺が肉牛の飼育の中心になっています。
統計
上の表では、牛肉の生産量と輸出量をまとめています。
牛肉の生産量が多い国は、輸出目的の企業的牧畜が盛んな新大陸の国々(アメリカ、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリア)です。
また、人口が多い中国でも生産量が多いのに対し、同じく人口が多いインドでは牛を神聖視するヒンドゥー教徒が多いため上位には現れません。
輸出国を見ると、企業的牧畜が盛んな国々が上位に来ています。
特徴的なのがインドです。
インドは国内に牛肉を食べないヒンドゥー教徒を国内に多数抱えているにも関わらず、牛肉の輸出量が上位に来ています。
これは、牛肉の貿易の統計が牛と水牛をまとめているからです。
牛(ウシ)と水牛(スイギュウ)は日本語では名前が似ていますが別の生物なので、インドでも水牛は牛とは別扱いです。
このため、インドでは牛肉の生産量が少ないかわりに、水牛の肉の生産が盛んであり、その結果牛肉+水牛の肉の輸出量でも上位に来ています。
輸入量については、中国やベトナム、日本のような人口が多い東アジア周辺の国が上位に来ています。
日本は主にオーストラリア(51%)とアメリカ合衆国(41%)から牛肉を輸入しており、両国合わせて輸入量の9割以上を占めます(2018年、市場統計グラフで見る日本とアメリカ ビーフの市場動向)。
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参考家畜の畜産物の分類(肉・乳・毛皮・使役など)
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参考文献
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佐藤 宏樹、伊佐 雅裕「アルゼンチンの牛肉生産・輸出の現状とパタゴニア地域の潜在力」 月報「畜産の情報」(2018年7月)
データブックオブ・ザ・ワールド2020年版 二宮書店
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水牛肉生産の現状と今後の見通し(インド) 独立行政法人 農畜産業振興機構 2023/9/15閲覧
「牛は神聖な動物」でも牛肉輸出大国…インドで見た畜産の本音と建前(2023/6/3) withnews 株式会社 朝日新聞社 2023/9/15閲覧
市場統計グラフで見る日本とアメリカ ビーフの市場動向 米国食肉輸出連合会 2024/3/16閲覧