アメリカ大陸などにみられる販売目的で大規模な作物栽培を行う農業の形態を企業的的農業といいます。
ここでは、ホイットルセーの農業地域区分の中でも、企業的農業に分類される3つの形態(企業的穀物/畑作農業、企業的牧畜、プランテーション農業)ついて解説します。
【ホイットルセーの農業地域区分・自給的農業・商業的農業・企業的農業】
企業的農業
企業的農業は商業的農業に大型の設備を導入して大規模化した粗放的な農業形態です。
販売目的で単一の作物の大量生産を行います。
人口密度が希薄な地域にヨーロッパ諸国から大規模な移民が行われた新大陸(南北アメリカ大陸やオーストラリア大陸)などで見られます。
企業的農業では広大な農地に対して飛行機で農薬散布を行うなどの機械化・合理化を行うことで単一の作物を大規模に栽培します(単作)。
企業的農業が成立するためには消費地までの輸送手段が必要不可欠であり、産業革命がおきた近代以降の世界的な物流や科学技術の発展に伴い成立した新しいタイプの農業形態です。
「企業的」とありますが、必ずしも運営主体が企業とは限りません。
たとえば、米国の養豚業では現在でも家族経営の農家が主流になっています。
「企業的」の意味は、あくまでお金をかけて機械を導入して大規模化したという意味にとらえてください。
同じく販売目的で作物栽培を行う商業的農業との違いは、企業的農業がアメリカ大陸やオーストラリアなどの新大陸で行われている大規模で機械化された土地生産性が低い代わりに労働生産性が高い農業形態であるのに対し、商業的農業は「ヨーロッパで発展した」多くの手間・コストをかけるため土地生産性が高い農業形態であるということです。
企業的農業の農業地域区分
商業的農業には次のような農業地域区分があります。
・企業的穀物/畑作農業
・企業的牧畜
・プランテーション農業
ここからは上記3つの農業形態を順番に説明します。
企業的穀物・畑作農業
企業的穀物・畑作農業は単一の農作物を販売目的で大規模に栽培する農業形態です。
少ない人数で広大な耕作地を担うため粗放的で土地生産性は低いですが、飛行機で農薬散布をするなど機械化が進んでいるため労働生産性は高いことが特徴です。
農業の効率化のために飛行機で農薬を散布をしたり、遺伝子組換え作物を導入するなどの品種改良が進んでいます。
地域としては肥沃な黒色土が広がる乾燥帯を中心に分布し、北米のプレーリーやアルゼンチンのパンパ、ロシアやウクライナのチェルノーゼム、オーストラリア南東部などで行われています。
気候に合わせて同じ作物を栽培する地域が広がるため、北米では栽培地域ごとに春小麦地帯やトウモロコシ地帯(コーンベルト)などといった呼び名がついています。
これらの地域は土壌が肥沃な上に機械化・合理化により労働生産性が高く、安値で作物を大量供給できます。
国際競争力が高く世界中に作物を輸出しているため、多くの国がこれらの地域の農作物に依存しています。
企業的牧畜
企業的牧畜は畜産物の販売を行う目的で家畜を大規模に飼育する農業形態です。
企業的穀物・畑作農業同様、粗放的だが合理化が進んでいるため労働生産性が高いことが特徴です。
上の写真はフィードロットとよばれる家畜の飼育施設の風景です。
狭い施設で肉牛を飼育し、カロリーの高いトウモロコシや大豆などの濃厚飼料を与えて短期間で集中的に太らせ、効率的に肉を生産します。
地域の分布も企業的穀物・畑作農業と近く、北米のプレーリー、アルゼンチン中部(パンパ)~南部(パタゴニア)、オーストラリアの大鑽井盆地などでみられます。
これらの地域はいずれもステップ気候やその周辺の乾燥した地域です。
牧畜では穀物の場合とは異なり、屠殺(とさつ)後の食肉は保存が難しいという問題があります。
特に南半球で生産された食肉を人口が集中するヨーロッパに運ぶ場合には、そのまま運ぶと気温が高い赤道を越える際に肉が腐ってしまうという問題がありました。
19世紀になると食肉を冷凍して鮮度を保ったまま長距離を運搬できる冷凍船が登場しました。
冷凍船による食肉の輸出は1870年代にはじまり、アルゼンチンやオーストラリアからヨーロッパへの輸出がはじまりました。
企業的牧畜はこのような輸送手段の発展に伴って新しく登場した農業形態になります。
プランテーション農業
プランテーションは熱帯地域の大規模農園で単一の作物を大規模栽培する農業形態です。
元々熱帯では、やせたラトソル土壌のため焼畑農業などの自給的農業が伝統的に行われてきました。
しかし、欧米の植民地支配の過程で、冷涼なヨーロッパでは栽培できない作物を大量生産して本国へ輸出するための農業形態としてプランテーション農業が生まれました。
熱帯の自給的農業は粗放的な農業形態が多いのに対し、プランテーション農業では「先進国の技術や資本」と「先進国より安価な労働力(地元民や移民)」を活用することで大規模農園を運営します。
栽培する作物は熱帯特有の商品作物であり、嗜好品や工業原料が多くなります。
具体的には茶、コーヒー、サトウキビ(砂糖)、タバコ、アブラヤシ(パーム油)、天然ゴム、綿花、果物類(パイナップルなど)があります。
プランテーション農業はその地域の気候に合わせて単一の作物を大量生産するため、場所によっては国全体の経済が特定の作物の輸出に依存している場合もあります(モノカルチャー経済)。
一例として、キューバのサトウキビ、スリランカの紅茶と天然ゴムなどがあります。
商品作物は市場価格が大きく上下するため、1つの商品作物の価格の下落が国全体の経済に大きな影響を与えます。
そこで近年では、地元民がプランテーションを経営して栽培する作物の多角化をするなどの動きが見られます。
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参考文献
片平博文他「新詳地理B」帝国書院(2020)
ダウエント・ホイットルセー ウィキペディア 2022/10/1閲覧
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地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
高柳長直「企業的農業の謎―地理用語の再考に向けて―」経済地理学年報 64 238-242 (2018)
企業的牧畜とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2022/11/5閲覧
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プランテーションとは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ) 2022/11/6閲覧
モノカルチャー経済とは コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2022/11/6閲覧