家畜の代表的な利用目的に食肉があります。
動物の家畜化がはじまった初期の頃から、人間が生きていくための食料として家畜の肉を利用していました。
このページでは、食肉として利用される家畜(豚・鶏・牛・その他)についてまとめます。
食肉の利用と家畜の肉用種
人類は農業をはじめる以前から、狩猟(しゅりょう)によって動物を捕獲し、その肉を食べて生きていました。
野生動物の家畜化がはじまると、人間の保護下で動物を育てて肥え太らせてから屠殺(とさつ)し、その肉(食肉)を食べるようになりました。
人類は歴史の長い時間をかけて家畜の品種改良を行い、食肉の生産に適した品種(肉用種)を生み出してきました。
代表的な肉用種を以下に挙げます。
牛:和牛、アンガス牛(アバディーン・アンガス種)
豚:ヨークシャー種(白豚)、バークシャー種(黒豚)、イベリコ豚
羊:サフォーク種
食肉生産に使用する品種は肉用種だけとは限りません。
たとえば、羊では毛を取る目的も兼ねた毛肉兼用種であるコリデール種やロムニー種などがあります。
また、乳をとる目的で品種改良された乳牛のホルシュタイン種でも、十分に乳を出せなくなったあとは乳廃牛として食肉として処分されます。
食肉用の家畜
ここからは、食肉用に飼育される代表的な家畜(豚・鶏・牛・その他)について簡単にまとめています。
豚(豚肉・養豚)
豚(ブタ)は野生のイノシシを家畜化したもので、主に食肉用に飼育される家畜です。
豚を家畜として飼育することを養豚(ようとん)といいます。
養豚は基本的に豚肉生産が目的になります。
豚のエサは、伝統的にはヨーロッパではドングリ、東アジアでは人の糞尿が用いられていました。
現代では、豚のエサはトウモロコシが主体であり、加えて大豆粕や小麦が使われています。
混合農業では豚のエサとなる作物の栽培適地で豚を飼育する農業と牧畜を組み合わせた農業形態が営まれています。
アメリカ合衆国ではトウモロコシの栽培適地(とうもろこし地帯(コーンベルト))で一緒に豚を飼育することで、トウモロコシの飼料を使った養豚が営まれています。
ドイツではジャガイモの栽培適地でジャガイモを豚のエサとした養豚が営まれています。
イスラム教徒(ムスリム)は豚肉を食べないため、豚の飼育や豚肉の消費はイスラム教徒が少ない国で行われます。
豚肉の生産量首位は中国(38.6%, 2019)であり、次いでアメリカ合衆国(11.4%)、ドイツ(4.8%)、スペイン(4.62%)となります。
豚肉の生産国は人口が多い中国、企業的牧畜が発達した先進国である米国、先進国が集中するヨーロッパ諸国が生産量上位に集まっています。
豚肉の消費量が多い国は東アジアやその周辺に位置するベトナム・フィリピンです。
そのため、米国やヨーロッパでは輸出量の割合が高く、東アジアへの輸出を中心に輸出量を増加させています。
日本はアメリカ合衆国、カナダ、スペインなどから豚肉を輸入しています(2021年度、令和3年度の食肉の需給動向について)。
鶏(鶏肉・養鶏)
鶏(ニワトリ)は主に肉(鶏肉)と卵(鶏卵(けいらん))を得るために飼育されている家畜です。
同様に飼育されている鳥類としては、アヒル、ガチョウ、七面鳥などがありますが、最も多く飼育されている家畜は鶏です。
鶏を飼育することを養鶏(ようけい)といい、北極・南極周辺を除く世界中で行われています。
ニワトリには主に採卵目的の卵用種と食肉生産目的の肉用種があります。
卵用種は、日本では卵の回収効率向上のためにバタリーケージとよばれる鳥かご(上の写真参照)の中に入れて飼育します。
バタリーケージは鶏が身動きできない過密飼育であり、動物福祉の観点からヨーロッパや米国の一部の州ではバタリーケージの使用が禁止されています。
一方、ブロイラーなどの肉用種では、採卵の必要がないため大部分が平飼い(放し飼い)で飼育されています。
鶏肉の生産量首位はアメリカ合衆国(17.1%, 2019)であり、次いで中国(12.3%)、ブラジル(11.5%)、ロシア(3.9%)、インド(3.5%)が生産量上位です。
日本は主にブラジル(74%)とタイ(23%)から鶏肉を輸入しており、両国合わせて輸入量の9割を占めます(2021年度、令和3年度の食肉の需給動向について)。
また、鶏卵の生産量首位は中国(34.1%, 2019)であり、次いでアメリカ(12.3%)、インド(6.9%)、インドネシア(5.7%)、ブラジル(3.8%)が生産量上位です。
牛(牛肉)
牛は代表的な食肉用の家畜であり、食肉用に飼育される牛のことを肉牛とよびます。
肉牛は新大陸(北米・南米・オーストラリア)の乾燥した地域で大規模な飼育が行われ、冷凍船で世界中に輸出されます(企業的牧畜)。
詳細については、以下のページで解説しています。
参考肉牛の飼育(混合農業と企業的牧畜・肉牛の品種・和牛)
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その他
食肉生産量の大部分はここまでで挙げた豚肉、鶏肉、牛肉で大半を占めます。
しかし、それ以外にも羊やヤギ、ウサギやアヒル、七面鳥などが食肉用として利用されています。
また、砂漠のラクダ、乾燥した草原地帯(ステップ気候)の馬など、地域の気候に合わせて飼育されている家畜も食肉用として利用されています。
統計
表 食肉用に処分された陸生動物の頭数と食肉生産量
出典(処分頭数):Meat, Wikipedia(原典:FAOSTAT, 2013)2023/12/30閲覧
出典(食肉生産量):Food Outlook, June 2023 (2021年分統計を参照), FAO, 2023/12/30閲覧
注:動物ごとに1頭から取れる肉の量が大幅に異なるため、単純な頭数と食肉の生産量は一致しない
家畜 | 処分頭数(億頭) | 食肉生産量(百万トン) | 食肉生産量(%) |
鶏 | 612 | 家禽(鳥類)合計 138.2 | 家禽(鳥類)合計 38.7 |
アヒル | 289 | ||
豚 | 145 | 120.9 | 33.9 |
ウサギ | 117 | --- | ---- |
ガチョウ | 6.9 | 家禽(鳥類)合計 138.2 | 家禽(鳥類)合計 38.7 |
七面鳥 | 6.2 | ||
羊 | 5.4 | 16.4 | 4.6 |
ヤギ | 4.4 | --- | --- |
牛 | 3.0 | 74.9 | 21.0 |
食肉全体 | --- | 356.9 | 100.0 |
ここからは食肉用に飼育される家畜について簡単にまとめていきます。
上の表は魚介類を除いた家畜の屠殺頭数と食肉生産量をまとめたものです。
食肉生産量全体に占める割合で見ると、豚肉と鶏肉(その他鳥類を含む)が全体の約1/3ずつを占め、次いで牛肉が約2割になっています。
食肉生産量を見ると単独の動物では豚が最も多く、鶏をはじめとする家禽(かきん、鳥類全般)も豚に匹敵する生産量です。
牛肉の生産量は豚肉の約6割であり少なめですが、それでも羊肉の4.7倍もあります。
以上のように、豚・家禽(主に鶏)、牛だけで世界の食肉生産量の9割以上を占めます。
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参考家畜の乳の利用(乳用種)
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参考文献
Meat, Wikipedia 2023/12/30閲覧
肉用種(にくようしゅ)とは? コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2023/12/30閲覧
Food Outlook, June 2023, Food and Agriculture Organization of the United Nations, 2023/12/30閲覧
地理用語研究会編「地理用語集第2版A・B共用」山川出版社(2019)
養豚 ウィキペディア 2023/12/30閲覧
混合農業とは コトバンク 日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 2024/1/25閲覧
日本国勢図会2021/22 公益財団法人矢野恒太記念会(2021)
絵で見る世界の畜産物需給 独立行政法人農畜産業振興機構 2023/12/30閲覧
令和3年度の食肉の需給動向について 独立行政法人農畜産業振興機構 2024/3/16閲覧
Poultry farming, Wikipedia 2023/12/30閲覧
ニワトリ ウィキペディア 2023/12/30閲覧
ニワトリ(にわとり)とは? コトバンク 改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ) 2023/12/30閲覧
バタリーケージ ウィキペディア 2023/12/30閲覧