赤道付近に広がる熱帯は、年中温暖な気候帯です。
ここでは、ケッペンの気候区分における熱帯について解説します。
他の気候区については、以下のリンク先をご覧ください。
【ケッペンの気候区分:熱帯・乾燥帯・温帯・亜寒帯(冷帯)・寒帯・高山・植生・土壌】
目次
熱帯(A)
ケッペンの気候区分における熱帯(A)は、最寒月平均気温18℃以上かつ樹木が生育できる降水量がある気候帯です。
最寒月平均気温18℃以上は、ヤシが自生することができる限界です。
熱帯気候は赤道付近に広がり、中米・カリブ海~アマゾン川流域(ブラジル北部周辺)、アフリカ大陸中部~マダガスカル、インド~東南アジア~オーストラリア北端部でみられます。
日本では沖縄が熱帯と温帯の境界にあたり、宮古島や石垣島が熱帯であるのに対し、わずかな気温差で沖縄島は温帯になります。
熱帯は、赤道付近の熱帯収束帯(赤道低圧帯)の影響をうけるため、降水量が多い気候帯です。
熱帯収束帯は太陽の位置の季節変動によって南北に動くため、乾燥帯との境界では、季節によっては熱帯収束帯から離れて亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)の影響をうけるため、乾季が存在します。
熱帯の気候区
熱帯の気候は降水量に基づいて、熱帯雨林気候(Af)、熱帯モンスーン気候(Am)、サバナ気候(Aw)の3つの気候区に分かれます。
小文字はドイツ語の単語の頭文字であり、fは湿潤(feucht)、mは中間(Mittelform)、wは冬に乾燥(wintertrocken)を表します。
一年中熱帯収束帯の影響をうけて年中降水量が多いのが熱帯雨林気候(Af)です。
熱帯雨林気候(Af)は、最少月降水量が60 mm以上の気候区です。
季節によって亜熱帯高圧帯の影響をうける場所では、雨季と乾季が存在します。
乾季にどの程度降水量が少なくなるかによって熱帯モンスーン気候(Am)とサバナ気候(Aw)に分けられます。
どちらも最少月降水量が60 mm以下の気候区ですが、最少月降水量が(100-0.04×年平均降水量) mmを超える場合は熱帯モンスーン気候、下回る場合はサバナ気候です。
サバナ気候の方が亜熱帯高気圧の影響をより強くうけ、明確な雨季と乾季があります。
一方、熱帯モンスーン気候は弱い乾季がある熱帯雨林気候ともいい、雨季には熱帯雨林気候と同程度の雨量がありますが、弱い乾季には降水量が少なくなります。
それでもサバナ気候よりは最少月降水量が多いのが熱帯モンスーン気候の特徴です。
気候区の分類を表にまとめます。
表 熱帯の気候区
気候区 | 特徴 | 年降水量 | 最少月降水量 | 最寒月平均気温 |
熱帯気候(A)共通 | 年中温暖 | 乾燥限界以上 | --- | 18℃以上 |
熱帯雨林気候(Af) | 年中多雨 | --- | 60 mm以上 | --- |
熱帯モンスーン気候(Am) | 弱い乾季 | --- | 60 mm未満かつ(100-0.04×年平均降水量) mm以上 | --- |
サバナ気候(Aw) | 明確な乾季 | --- | 60 mm未満かつ(100-0.04×年平均降水量) mm未満 | --- |
ここからはそれぞれの気候区について詳しくみていきます。
熱帯雨林気候(Af)
熱帯雨林気候(Af)は、最寒月の月平均気温が 18℃以上の熱帯気候のうち、最少月降水量が60 mm以上の気候区です。
fはドイツ語で湿潤(feucht)の意味で、湿潤な気候なので森林(forest)が多く広がります。
赤道周辺にみられ、一年中高温多雨ではっきりした乾季がみられない気候です。
一年中太陽に近い位置に存在するため季節変化はほとんどなく、気温の年較差(年間の気温差)は小さく、日較差(一日の間の気温差)の方が大きくなります。
午後から夕方にかけて、太陽光で暖められた空気が上昇気流をつくり、スコールとよばれる雷を伴う局所的な激しい大雨がおきます。
(なお、スコールにはいろいろな意味があり、短時間の強風を指すこともあります。)
熱帯雨林気候(Af)は、アマゾン盆地(ブラジル他)やコンゴ盆地(コンゴ民主共和国・コンゴ共和国)など赤道周辺にみられます。
主な都市としては、ベレン(ブラジル)、パラマリボ(スリナム)、キサンガニ(コンゴ民主共和国)、コロンボ(スリランカ)、シンガポール、クアラルンプール(マレーシア)などがあります。
熱帯雨林気候の植生(熱帯雨林)
熱帯雨林気候の地域では、強い日差しと湿度の高さのため常緑広葉樹が生い茂る熱帯雨林(熱帯多雨林)とよばれる密林が広がります。
アマゾン盆地のアマゾン川流域(ブラジル他)の熱帯雨林は、セルバ(スペイン語とポルトガル語で森林の意味)とよばれています。
アマゾン川流域原産で天然ゴムを採取できるパラゴムノキが生育し、現在ではゴム採取のために東南アジアのプランテーションなどで広く栽培されています。
熱帯雨林では高木が密生して林床(地表)まで太陽光が届きにくいため、昼でも薄暗くなります。
地表では根を張らないコケなどの着生植物やつる植物が生育し、草本植物(いわゆる草)は少なく、意外と歩きやすいのが特徴です。
伐採や山火事などで樹木が失われ、地表に十分な太陽光が届くようになると、低木やつる植物が発達して歩きにくいジャングルとよばれる密林ができあがります。
マングローブ
熱帯から亜熱帯(温帯の熱帯隣接地域)の海岸では、淡水と海水が入りまじる干潟にマングローブとよばれる低木の森林が広がります。
マングローブは海水まじりの塩分濃度に耐えられる耐塩性をもつ植物からなり、波の侵食から海岸を守り、小さな魚の生育の場となります。
マングローブ林は熱帯で広くみられ、日本では琉球諸島で発達し、北は種子島(鹿児島)までみられます。
熱帯モンスーン気候(Am)
熱帯モンスーン気候(Am、熱帯季節風気候)は、最寒月の月平均気温が 18℃以上の熱帯気候のうち、最少月降水量が60 mm以下かつ(100-0.04×年平均降水量) mmを超える気候区です。
Amのmがドイツ語で中間(Mittelform)を表しているように、熱帯雨林気候(Af)とサバナ気候(Aw)の中間的な気候区です。
mはモンスーン(monsoon)ではなく中間(middle)の意味です。
最少月降水量が60 mm以下になる熱帯モンスーン気候とサバナ気候はどちらも雨季と乾季が存在します。
亜熱帯高気圧(中緯度高圧帯)の影響下にある乾季には降水量が少なくなるサバナ気候に対し、熱帯モンスーン気候では降水量が少ない月でも降水量が比較的多くなります。
熱帯収束帯の影響下にある雨季には、熱帯雨林気候よりも降水量が多い場所もあるため、弱い乾季のある熱帯雨林気候ともよばれます。
熱帯モンスーン気候は、年中降水量の多い熱帯雨林気候から明瞭な乾季があるサバナ気候への移行地域ともいえます。
アジアでは季節風(モンスーン)に影響される地域であり、豊富な降水量を活かした稲作が行われています。
それ以外の地域では、バナナなどの果物やサトウキビの栽培が行われています。
熱帯モンスーン気候は、アマゾン川下流域やアフリカ西部の海岸部、インド西海岸、インドシナ半島沿岸部など熱帯雨林気候の周辺地域にみられます。
加えて、インドシナ半島やアフリカのギニア湾周辺のように内陸部にはサバナ気候(Aw)だが、沿岸部は海洋の影響で乾季の乾燥が軽減されて熱帯モンスーン気候に分類される地域もあります。
主な都市としては、マイアミ(米フロリダ州)、マナウス(ブラジル)、コナクリ(ギニア)、ジャカルタ(インドネシア)、ケアンズ(オーストラリア北東部)、海口(中国南部)などがあります。
熱帯モンスーン気候の植生(熱帯季節林)
熱帯モンスーン気候では弱い乾季があるため、乾燥に対応するために熱帯雨林よりも肉厚な葉や樹皮をもつ樹木が生育します。
熱帯雨林よりも樹木の背は低く、一部に乾季に上層だけ落葉する落葉広葉樹もみられます。
より乾燥が強い地域では、樹木全体の葉が落葉するものに変わります。
このように乾季に落葉して雨季にのみ葉をつけて緑色になることから、雨緑林とも呼ばれます。
以上のような熱帯雨林とサバナの疎林の中間的な森林を熱帯季節林といい、熱帯モンスーン気候に特徴的な森林です。
サバナ気候(Aw)
サバナ気候(Aw)は、最寒月の月平均気温が 18℃以上の熱帯気候のうち、最少月降水量が60 mm以下で最少月降水量が(100-0.04×年平均降水量) mmを下回る気候区です。
サバナ気候は熱帯と乾燥帯の境界に位置する気候で、熱帯収束帯の影響下にある雨季と亜熱帯高気圧(中緯度高圧帯)の影響下にある乾季にはっきり分かれます。
Awのwがドイツ語で冬に乾燥(wintertrocken、英語だとwinter)を表すとおり、サバナ気候では雨季が夏で冬が乾季になる地域が多いです。
これは、太陽光を多くうける夏に熱帯収束帯が高緯度側に広がるため、サバナ気候の地域もその影響下に入り雨が多くなるためです。
反対に、冬は熱帯収束帯が低緯度(赤道)側に後退するため、亜熱帯高気圧(中緯度高圧帯)の影響下に入り乾燥します。
大陸東岸では季節風(モンスーン)の影響をうけるため、年中亜熱帯高圧帯の影響下に入る場所でも雨季にはモンスーンによる降水が多くなります。
そのため、亜熱帯高圧帯に起因する乾燥帯(B)は存在せず、最寒月平均気温が18℃以上の場合は熱帯のサバナ気候(Aw)、18℃未満の場合は温帯の温暖冬季少雨気候(Cw)になります。
Awとは逆に雨季が冬で乾季が夏となる熱帯夏季少雨気候(As)も存在しますが、Awと類似するためサバナ気候にまとめられることが多いです。
熱帯夏季少雨気候(As)では、モンスーンの影響をうける地域で山岳により雨陰ができるため夏に雨が降らず、風向きが逆転する冬に降水が多くなります(冬も降水が乏しい場合は雨陰砂漠になります)。
山岳の影響をうける狭い範囲でみられる気候区であり、山を挟んだ反対側にはサバナ気候がみられます。
サバナ気候の地域では、サバナ(サバンナ)とよばれる低木が点在する草原が広がります。
農業としては、乾季に森林を燃やし雨季に作物を栽培する焼畑農業が行われています。
気温が高くや日照量の多い気候を利用して、コーヒー豆や綿花、サトウキビ、カカオなどが栽培されています。
サバナ気候は、ブラジル高原(ブラジル)、ギニア湾沿岸などのアフリカ中央部、インド東部、インドシナ半島内陸部、オーストラリア北端部などでみられます。
インドシナ半島やアフリカのギニア湾周辺のように、内陸部はサバナ気候だが沿岸部は乾季の乾燥が海により軽減されて熱帯モンスーン気候(Am)になる地域もあります。
主な都市としては、ハバナ(キューバ)、リオデジャネイロ(ブラジル)、キンシャサ(コンゴ民主共和国)、ムンバイ(インド)、バンコク(タイ)、ホーチミン(ベトナム南部)、ダーウィン(オーストラリア北部)などがあります。
サバナ気候の植生(サバナ)
サバナ気候にみられる草原地帯をサバナ(サバンナ)といいます。
植生はまばらで、低木が疎林(樹木の密度の低い林)をつくり、その他は背の高いイネ科植物の草原が広がります。
乾季には樹木は落葉し、草原は枯れます。
サバナは森林と草原の移行帯にあたります。
サバナの草原は乾燥限界以上の降水があるため乾燥帯の短草草原(ステップ)よりも草丈が高く、長草草原とよばれています。
サバナには地域ごとに呼び名があります。
南米のオリノコ川流域(ベネズエラ・コロンビア)ではリャノ、ブラジル高原ではカンポ(セラード)、アルゼンチン北部~パラグアイ・ボリビアではグランチャコとよばれます。
アフリカのサバナを代表する樹木として、バオバブがあります。
バオパブは上の写真にあるように太い幹をもつ背の高い樹木です。
アフリカ大陸、マダガスカル、オーストラリアに生育します。
乾季には落葉し、雨季に蓄えた大量の水で乾燥に耐えます。
葉や果肉は食用になり、実からは油がとれます。
熱帯の土壌
熱帯雨林の緑豊かな外観とは裏腹に、熱帯の土壌は栄養分が少ない(=やせた)酸性の土壌です。
落葉はシロアリなどに持ち帰られ、残ったものも高温で微生物の分解速度が速いこともあり、腐植土が堆積しません。
加えて、降水量の多さから土壌中の栄養分はすぐに流出し、水に溶けにくい鉄やアルミニウムが残留してラトソル(ラテライト)とよばれる赤褐色の土壌になります。
赤褐色になるのは鉄が空気に触れて酸化したためです。
ラトソルは熱帯雨林気候からサバナ気候まで、熱帯に共通して広くみられる土壌です(亜熱帯(温帯の熱帯隣接地域)でもみられます)。
特に雨季と乾季がある熱帯モンスーン気候やサバナ気候で典型的に発達します。
ラトソルは栄養分が少なく農業に不向きなので、熱帯では伝統的に森林を焼き払って残った灰を肥料として農業を行い、肥料がなくなると畑を放棄して別な場所へ移動する焼畑農業が行われています。
焼畑農業は小規模な人口を養うことができますが、植生の回復の速度を越える大規模な伐採を行うと降水量の多さもあいまって土壌が流出し、森林破壊につながります。
やせた土壌のため、一旦広範囲の土壌が流出して植生が失われると、保水力が弱いため砂漠化しやすくなります。
熱帯雨林での樹木の伐採は、焼畑農業だけではなく先進国への木材の輸出目的の商業伐採の割合が高く、森林保護のために丸太の輸出を規制する国もでてきています。
熱帯雨林は植物の光合成による酸素の供給源となり、保水の役割も果たし、地球上の生物種の半数以上が生息するため遺伝子の宝庫とよばれています。
しかし、熱帯雨林の多くは発展途上国に位置するため、伐採による森林破壊が進み、その面積は年々小さくなっています。
森林が焼き払われると木々に固定されていた炭素が二酸化炭素になって空気中に放出されるため、地球温暖化への影響が懸念されています。
参考文献
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